From ニューヨーク  「熱く生きる」
渡米以来の奮闘記「熱く生きる」と徒然エッセイ
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  • 200812
連載「熱く生きる」 一章 羅針盤のない船(その14:赤貧)
 日本では大阪市内の従姉の家に居候した。しかし、アメリカからもち帰った大判風呂敷をひろげたような話も、金策による多忙も、サラリーマン家庭の従姉にしてみれば尋常ではない。
 「洋ちゃん、なに考えてんの?! ちゃんとした仕事を探しいや!!」
 もっともな叱咤であり、一つきほどで追い出されてしまった。
 金を貸してくれる友人はありがたいことに何人もいたのだが、そのような頼りになる友人は所帯持ちの男ばかり。まさか居候はたのめない。かれらが用立ててくれた金にしてもカードの支払い(約三百万円)に充てねばならず、住居など借りる余裕もなかった。帰国してまもなくローンで購入した車で寝るしかなかった。
 そんな折も折、伸男さんの事務所で知り合った松下さんから、
 「よかったら、うちの事務所にけえへん?」
 と、誘われ、デスクを置かせてもらったばかりか、
 「よかったら、ここで寝てもええよ」
 車で寝るよりかなりましになった。
 松下さんは製薬会社勤務からの脱サラ。弁護士への医療関係アドバイスを主にあつかっておられ、このころ伸男さんが理事をしていた「大阪HIV薬害訴訟」にも関与されていた。だが、当時は独立したばかりで経営にゆとりがないため、時には探偵などもやっておられた。ご自身もそのように苦しい状況にあるというのに、私のためにアパートまで探してくださった。
 「激安やから、せまいし、きれいじゃないけど、ここで寝るよりましちゃう」
 激安のアパートは、JRの桜ノ宮の高架脇で電車が通るたびに揺れる窓無し同然の三畳間。家賃はたしか一万七千円ほどだったと思う。その後も交友のあった寛も一度見にきたことがあり、
 「ここまで落とせるとはな・・・・」
 肩を落としてそういう寛の方が、当事者の私より気の毒なぐらいだった。
 寛との関係はあくまでも友人であって、縒りをもどして楽になることは思わなかった。また、親に頼ることも考えなかった。一人娘の私は、両親のもとでも、前夫のもとでも何不自由なくぬくぬくと生きて来た。ゆえに自立心に欠けていた。離婚していらい、いやというほど味わった自立心のなさによる恐怖、それをここで断ち切らねば生涯ついて回ると思ったからである。どん底を味わうにはもってこいの、日のあたらない三畳間で、それを日々自分に言い聞かせた。

ところで、日本にもち帰った仕事のネタはというと、資金繰りに忙しく、たいした動きが取れなかったことにも加え、どれも簡単に商談に結びつくものではないため、頭が痛かった。 ニューヨークの仲間の期待を背負っているので、なんとかしたい気持ちはあるのだが、ダメなものをいつまでもやるわけにもゆかない。
 そのような中、松下さんが英語学校を開いてみてはどうかという。
 「先生やったらシモンもいてるし、すぐに金にもなるやん」
 シモンというのは、帰国後に知人の紹介で知り合ったデンマーク人で、英語も堪能。本職はモデルなのだが、依頼が安定しないらしく、私とおなじ貧乏人だった。
 「やりましょう!ほかの教師は私が集めるから」
 「じゃあ、やってみようか」
 生徒集めは、私がやり、友人や知人らに声をかけたところ、二十人近くがすぐに集まった。内の一人は伸男さんで、シモン先生の個人レッスンの受講者になってくれた。教室にあてる場所は、事務所からもちかい地下鉄扇町駅付近に時間貸しのスペースをみつけた。
 この英語学校の開校により、無収入からは脱することができた。しかし、二十人ほどの生徒数では利益はたいしたものではないし、そう簡単に生徒が増やせるものでもない。資金繰りの助けにはほど遠く、木枯らしが冷たさを増すごとに赤貧のつらさも増した。
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