それはまさしくゼロからの再出発だった。
翌朝、短期滞在用の部屋を借りる手配をした。シェラトンはクレジットカードでチェックアウトし、当座の金もクレジットカードから引き出した。
借り住まいに移ると、即刻、伸男さんに電話を入れた。伸男さんが預かっている不動産譲渡税用の約五十万円を至急送金してくれるように頼むためである。事情を知った伸男さんは開口一番、
「そんなことになってしもて、危ないから帰って来い」
「なに言うてんの、帰れるわけないやろ」
なけなしの金を持ち逃げされ、泣く泣く帰国するなど情けないの域を超えている。
また、変なところで生真面目な伸男さん、税金用の金の件については、
「アホか、税金は絶対に払わなあかん」
「キレイ事いうてる場合ちゃう。税務署は困れへんけど、私は困んねん!」
「たのむ、たのむから送って」
と、最後は泣き落とし、結果、送ってくれることになった。
次にやらなくてはならないことは家探しだった。仮住まいはミッドタウンのコンドミニアムで家賃が高かったからである。日本人向けの地元紙の広告にてごろな物件をみつけたので、さっそく見にいった。家賃は仮住まいの約半分で、たしか七五〇ドルだったと記憶する。場所は東二十三丁目。十二階建ての最上階のその部屋はサンルーフ付きの洒落たロフトだった。住人の二人は一階と二階に別れてシェアをしているらしい。広告に載せたのは、日本に帰国することになり、シェアメイトのために引継ぎを探していたタケシさん。
タケシさんには気がかりなことが一つあった。
「シェアメイトはおかまなんですけど、それ大丈夫ですか?」
「そんなのぜんぜん問題ありません」
おかまでも、はかまでもなんでもよかった。タケシさんの帰国は一ヶ月ほど先で、入居はその後ということだったが、事情を説明すると、その間三人でよければということになり、そうさせてもらうことにした。
シェアメイトのロンはコロラド出身のアメリカ人。ニューヨークではそこそこ名が知れているらしいヘアサロンで美容師をしていた。タケシさんが心配したオカマの件もなんら問題はなく、それどころか、中性型でもあれば、年もちょっと上の私を慕ってくれ、気心の知れた友人との共同生活のような感じで、住み心地がよかった。シェアメイトでは苦労するケースが多いらしく、貧乏神には酷い目にあわされたが、天使もさぼってはいないといったところだろう。
住まいの心配がなくなったところで、稼ぐ事を考えねばならなかった。だが、私は勤め人の経験が皆無にひとしい。このきわどい状況下でも一般の勤めはまったく眼中になく、ビジネスのネタを追い求めた。
さすがは「商いのメッカ」。ロンのアーティスト系の友人関係などを介して、おもしろいようにネタがみつかった。それもちんけなものではない。デザイナー(服飾)の卵を日本資本で売り出すという構想であるとか、高額絵画の斡旋であるとか。後者は、ジャパンマネーがゴッホの「ひまわり」を落札するなどしており、大穴を狙うにはおもしろいネタだった。
ネタ探しをはじめてほぼ一つき。資金繰りで使ったクレジットカードの支払いが迫ってきたこともあり、それらの話もあるていどの形になったところで、日本禁へ向かうことにした。帰国の前日は関係者らを自宅に招待し、泥舟に乗っているにもかかわらず、大船に乗ったつもりで、と、みなをその気にさせた。
翌朝、短期滞在用の部屋を借りる手配をした。シェラトンはクレジットカードでチェックアウトし、当座の金もクレジットカードから引き出した。
借り住まいに移ると、即刻、伸男さんに電話を入れた。伸男さんが預かっている不動産譲渡税用の約五十万円を至急送金してくれるように頼むためである。事情を知った伸男さんは開口一番、
「そんなことになってしもて、危ないから帰って来い」
「なに言うてんの、帰れるわけないやろ」
なけなしの金を持ち逃げされ、泣く泣く帰国するなど情けないの域を超えている。
また、変なところで生真面目な伸男さん、税金用の金の件については、
「アホか、税金は絶対に払わなあかん」
「キレイ事いうてる場合ちゃう。税務署は困れへんけど、私は困んねん!」
「たのむ、たのむから送って」
と、最後は泣き落とし、結果、送ってくれることになった。
次にやらなくてはならないことは家探しだった。仮住まいはミッドタウンのコンドミニアムで家賃が高かったからである。日本人向けの地元紙の広告にてごろな物件をみつけたので、さっそく見にいった。家賃は仮住まいの約半分で、たしか七五〇ドルだったと記憶する。場所は東二十三丁目。十二階建ての最上階のその部屋はサンルーフ付きの洒落たロフトだった。住人の二人は一階と二階に別れてシェアをしているらしい。広告に載せたのは、日本に帰国することになり、シェアメイトのために引継ぎを探していたタケシさん。
タケシさんには気がかりなことが一つあった。
「シェアメイトはおかまなんですけど、それ大丈夫ですか?」
「そんなのぜんぜん問題ありません」
おかまでも、はかまでもなんでもよかった。タケシさんの帰国は一ヶ月ほど先で、入居はその後ということだったが、事情を説明すると、その間三人でよければということになり、そうさせてもらうことにした。
シェアメイトのロンはコロラド出身のアメリカ人。ニューヨークではそこそこ名が知れているらしいヘアサロンで美容師をしていた。タケシさんが心配したオカマの件もなんら問題はなく、それどころか、中性型でもあれば、年もちょっと上の私を慕ってくれ、気心の知れた友人との共同生活のような感じで、住み心地がよかった。シェアメイトでは苦労するケースが多いらしく、貧乏神には酷い目にあわされたが、天使もさぼってはいないといったところだろう。
住まいの心配がなくなったところで、稼ぐ事を考えねばならなかった。だが、私は勤め人の経験が皆無にひとしい。このきわどい状況下でも一般の勤めはまったく眼中になく、ビジネスのネタを追い求めた。
さすがは「商いのメッカ」。ロンのアーティスト系の友人関係などを介して、おもしろいようにネタがみつかった。それもちんけなものではない。デザイナー(服飾)の卵を日本資本で売り出すという構想であるとか、高額絵画の斡旋であるとか。後者は、ジャパンマネーがゴッホの「ひまわり」を落札するなどしており、大穴を狙うにはおもしろいネタだった。
ネタ探しをはじめてほぼ一つき。資金繰りで使ったクレジットカードの支払いが迫ってきたこともあり、それらの話もあるていどの形になったところで、日本禁へ向かうことにした。帰国の前日は関係者らを自宅に招待し、泥舟に乗っているにもかかわらず、大船に乗ったつもりで、と、みなをその気にさせた。
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